※「ベストライセンス」を検索してこのページにお越しになった皆様。「ゆっくり茶番劇」に関連して記事も書いてますのでぜひ!併せてお読みください!
先日、審判決を物色していたところ、商標業界の超有名会社であるベストライセンス株式会社さんが異議申立人になった異議決定がありました(異議2018-900043)。
どんな事件かというと楽天株式会社の登録商標↓↓に対して「R・MOBILE」(商願2017-124292)を所有するベストライセンス社が「こちらの方が先に出願した!」として楽天の商標の取消を主張したものです。
登録第5998613号商標
結論としてベストライセンス社の主張は認められませんでした。ベストライセンス社の商標「R・MOBILE」は分割出願だったのですが、親出願の全指定商品・役務を分割しちゃった為(割とマジでなんでなの??)、適法な分割出願とみなされなかったんですね。
ベストライセンス社は「全指定商品・役務を対象にする分割出願だから認められないよ」という指摘を特許庁から、過去に他異議申立で受けているのですが(しかも何度もね)。
誰かもっと上手なやり方があると教えてあげたら良かったんじゃないかな?(おいやめろ)
繰り返しになりますがこの事件の異議申立人であるベストライセンス社は商標業界の超有名会社。その代表者の上田育弘氏も超有名人です(ちなみに上田育弘氏は元弁理士です。)。商標に携わっている方に聞いてみたらまず誰でも知っていると思います。
ベストライセンス社及び上田育弘氏が著名な理由は大量の商標出願を出願手数料を支払わずに行った為です。どれほど大量かというと、ウィキペディアの上田育弘氏のページによれば2015年は14,786件、2016年は25,000件という想像を絶する件数です。ちなみに2015年の出願総件数は約14万7000件、2016年は約16万件ですからどれ程の規模かお分かり頂けると思います。全出願の1割以上!頭がクラクラしますね。これって誰かを雇って出願したのかな?上田育弘氏がご自分で1件1件やられたとはとても思えないのですが。。。
商標の年間出願件数はこちら↓↓でもすこし触れていますので宜しければご覧ください。
「出願手数料を支払わないで出願するなんてことできるの?」と思われるかもしれませんが、制度上は可能です。特許印紙を貼り忘れて出願した場合、後から出願手数料を納付すれば有効な出願として取り扱われます。本来は、うっかり忘れてしまった出願人を救済するルールですが、これを悪用されてしまった訳ですね。
またベストライセンス社及び上田育弘氏は流行語を大量に出願したことでも名を馳せました。ウィキペディアの「上田育弘」氏のページによると例えば以下のフレーズが商標出願されました。
『じぇじぇじぇ』(商願2014-001492)
『倍返し』(商願2014-032028)
『STAP細胞はあります』(商願2015-13917)
『民進党』(商願2016-110169)
『ペンパイナッポーアッポーペン』(商願2016-133239)
『PPAP』(商願2016-108551)
あ、すげぇ懐かしい。
『ペンパイナッポーアッポーペン』(商願2016-133239)と『PPAP』(商願2016-108551)については本家のエイベックスさんよりも早く出願したばっかりにテレビニュースにも取り上げられ、当時はかなり話題になりました。目にされた方も多いかもしれません。
それにしてもベストライセンス社及び上田育弘氏が大量の商標出願を行う理由は何なのか?当然彼らなりの理由はあってですね、戦略の概要は以下の通りと考えられています。
とにかく大量に商標出願を行う
↓
誰か(仮にXさんとします)がベストライセンス社と同一・類似の商標を出願する(※商標が同一・類似なのは完全に偶然。なにせたくさん出願してるから)
↓
ベストライセンス社の先行商標が原因で拒絶理由が通知されXさんが困る
↓
ベストライセンス社が困ったXさんに自己の商標の買取を迫る
という感じだと思われます。
しかし、ベストライセンス社は頑なに商標出願手数料を支払わないので最終的には出願却下処分になります。どういう訳か上記のようなベストライセンス社の狙い通りの状況になっても支払わないパターンが多かった模様。支払えば良かったのにね(おいやめろ)。
却下前に分割出願をするケースも多いのですが、指定商品等を全部分割しちゃうから(もはや分割とは呼べん)適法な分割出願と認められません。
このベストライセンス社の大量出願は商標業界に少なからず混乱をもたらしました。
そこで特許庁が平成28年5月17日異例の声明を発表します。
https://www.jpo.go.jp/faq/yokuaru/trademark/tanin_shutsugan.html
特許庁ウェブサイト「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」
せっかくなのでぜひ特許庁の声明を読んで頂きたいのですが(なかなかお目にかかれない代物です)、特定こそしていないもののベストライセンス社及び上田育弘氏の大量出願を意識したものであることは明白です。この文章を読むと「例え出願料を支払ったとしても絶対に登録しねぇからな(筆者超訳)」という特許庁の並々ならぬ決意というか怒りを感じます。なんというか、行間からおさえきれない憤怒がにじみ出てるというか。。。(言い過ぎ?)
「やべぇ。。。特許庁様がガチで怒ってはる。。。」と当時は戦慄しつつも頼もしく感じたものです。
そして分割出願に関する法改正が行われ「出願手数料を支払っていない場合は分割できない」ことになりました。説明はありませんが、おそらくはベストライセンス社の大量出願を考慮しての改正とみられています。一企業とその代表者の行為によって法律までが変わってしまった訳です。
ベストライセンス社の大量出願は業界内では「迷惑な行為」と認識されることが多いようです。出願手数料を支払わない大量出願は特許庁にも多大な負荷をかけていると思われ、また、自身で使用しない商標の出願により第三者の商標選択の幅を狭めている訳なので「迷惑」と一蹴されるのも無理からぬところです。
ただどのような物事にも光と影があるように、良き面もあるんじゃないかと個人的には考えます。少なくとも、ベストライセンス社の大量出願が知れ渡るにつれ「商標保護の重要性」の世間の認知は向上したように思います。「困った事態になる前に自社ブランドを商標出願・登録しておこう」と考え、早めに商標出願した企業も多かったのではないでしょうか。当時セミナーにてベストライセンス社の話をすると、少し場の空気が変わるような雰囲気がありました。そして「こんな面倒なことに巻き込まれる前に自分のとこの商標を出願しなきゃ」と思った方は多かったんじゃないかと思います。
日本ではベストライセンス社の大量出願以前には、いわゆる「商標トロール」(他社に買い取り要求・損害賠償請求を行うことを目的に商標権を取得する行為)とみなされる出願は多くは無かったはずです。しかし、今後はどうなるかわかりません。ベストライセンス社よりも巧みにトロール行為が行われた場合、完全な防衛が困難なケースもでてくるおそれがあります。実際に外国では他者商標を悪意で出願する「冒認出願」が頻繁に行われています。悪いことではありますが、先に商標出願をされてしまうと、本来の商標所有者でも取り消すことが難しい国・地域が多いのが現実です(取り消せたとしても相当の費用と人的・時間的コストがかかります。)。そう考えると、やはり自己の商標は早期出願しておくことが最も安全で費用対効果も高いように思われます。
このようにベストライセンス社の行為により知財保護の意識が高まった可能性はあるように思います。また「法の抜け穴」的な部分が可視化されたという点も考えられますね。
ということで業界を騒がせたベストライセンス社さんですが最近はあまり目立った動きがないように思えます。とういことで次回はベストライセンス社さんの最近の動向や、どんな商標を所有しているのか?という点についてお話します。
商標出願は早い者勝ちが原則です。先に使っていても、後から同一・類似商標を他人が取得してしまうと使用できなくなる可能性が高いです。トラブルに巻き込まれる前に早めに保護することが大切です。
商標トラブルにまきこまれ自分の屋号が使えなくなった↓↓事例もあります。
商標出願・登録のご相談は弊所までお気軽にご連絡下さい。
それにしてもウィキの上田育弘氏のページ、すごく良くまとまってて流石ですね。というか、これを読めばこのブログ記事必要なくね。。。?(笑)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E7%94%B0%E8%82%B2%E5%BC%98
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 「上田育弘」のページ