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やさしい商標のはなし⑪ 外国で商標登録するにはどうすればいいの?商標権を取得する二つの方法を説明します。

「商標とはなにか?」をやさしく解説するシリーズ。商標ビギナーの方も通して読むことで商標の大体のことがわかってしまう。そんな内容を目指してます!

前回は「商品・サービスを外国で展開する為には対象国で商標を早めに取得しましょうね。日本で商標登録していてもその効果は外国には及びませんよ」といったお話をしました。

今回は外国出願を行う際の二つの方法について説明します。

海外で商標出願・登録する方法として大きく分けて以下の二つがあります。

1.各国毎の出願
2.マドプロ出願(国際登録出願)

以下、順番に解説しますが、ざっくりと概要を説明すると、対象国毎に出願を手続するのが上記1で、各国への手続を「商標の国際登録」を通じて一本化しているのが上記2ということになります。

1.各国毎の出願

日本で商標出願・登録をするのと同じ方法です。つまり、各国特許庁へ個別に商標出願を手続して登録を得る方法です。以下、特許庁の資料がわかりやすいので、これを基に説明します。

出典:特許庁     商標の国際登録活用ガイド 「05 外国への直接出願とマドプロ出願」

https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota-info/document/panhu/panhu18.pdf

上記図の左にある「各国別出願」の方です。

米国、フランス、中国で商標権を取得したい場合、各国の代理人を通じて出願を手続し登録を得ることになります。

通常は「日本代理人(弁理士等)→外国代理人→特許庁へ手続」という流れになる為、①日本の代理人②外国代理人③外国特許庁費用という3カ所の費用が発生することになります。国によって費用は変わりますが、それでもなかなかの費用感になるのは想像いただけるんじゃないでしょうか。

更に各国毎に手続するってことは、10カ国だったら10件の手続が必要な訳で、10通の出願依頼を作成して各国代理人にメールして、10件の返信が来て出願報告も10件来て。。。と当たり前ですが事務手続も10件分あります。これはなかなか大変ですよね。当然のことながら請求書も10件分きます(泣)。この辺りの煩雑さを解消し、費用面でもメリットがあるのが以下に紹介する「2.マドプロ出願」です。

2.マドプロ出願(国際登録出願)

マドプロ出願というのは商標をWIPO(国際事務局)というところに商標を「国際登録」し、各国へ出願手続を行うものです。上記の図を見て頂きたいのですが、手続自体は日本の特許庁を通じてWIPOにのみ行い各国毎に行う必要がありません。よって各国出願と比べて手続的にはかなり楽ちんです。

また費用面でも大きなメリットがあります。「各国毎の出願」の場合、原則、各国に現地代理人に手数料を支払って手続してもらう必要がありますが、マドプロ出願では料金支払はWIPOへ一括して行います。国・現地代理人により差はあるものの、2,3カ国以上の出願であれば各国毎の出願よりもマドプロ出願の方が費用を抑えられることが多いです(既に基礎商標が存在することが前提です。)。現地代理人費用が発生しないことのインパクトはかなり大きく、国数次第では 「各国毎の出願」 と2倍、3倍の価格差になることはザラにあります。

このように良いことづくめのマドプロ出願ですが利用に際してはいくつかの制限があります。まずは世界中の国で利用できる訳ではなく、マドリッド協定議定書というものの加盟国だけが対象となります。これを執筆している2021年10月現在では加盟数は108でEUとOAPIを含むため124ヵ国をカバーしています。2021年12月28日にUAEが新たに加盟国に加わりますが、常に最新情報を確認するようにすることをお勧めします。

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/madrid/madopro_kamei.html

特許庁ウェブサイト 【商標の国際出願】締約国一覧

更にマドプロ出願を行うための条件としては以下の点が重要です。

・本国官庁(通常は日本)における基礎商標(商標出願または登録)が存在すること
・商標が基礎商標と同一であること
・指定商品・役務が基礎商標の範囲内であること

堅苦しい言葉で書いていて↑↑はわかりづらいかもですが、商標の国際登録(マドプロ出願)というのは「ある国の商標保護を他の国に広げる」というイメージなんですね。その為、拡張していくためのオリジナルとなる商標が必要で、それが日本における「基礎商標」ということです。この基礎商標と同じマークを加盟国に広げていくことができる制度です。

基礎商標と同一である必要があるため、例えば基礎商標がカタカナの「ネームズ」である場合、これを基礎商標としてアルファベットの「names」をマドプロ出願することは出来ません。同一性はかなり厳しくみられるので、マドプロ出願できるのはカタナカの「ネームズ」のみです。この場合、アルファベットの「names」をマドプロ出願したいのであれば、新たに日本で「names」を商標出願しなおす必要があります。

この「基礎商標を加盟国に広げていく」という考え方から「指定商品・役務が基礎商標の範囲内であること」が求められます。例えば基礎商標で「スマートフォン」がカバーされていなければ、マドプロ出願で同商品を指定することはできない訳です。

このような「基礎商標との同一性」の縛りがある為、例えば出願中の商標を基礎としてマドプロ出願を行い、その基礎商標の一部が審査で拒絶されてしまった場合、その部分は国際登録から取り消されてしまいます。オリジナル(基礎商標)から失われた範囲について、外国に拡張することは出来ない為です。よって、出願中の商標を基礎とすべきかは慎重に判断する必要があります。可能であれば早期審査を利用して、登録後にマドプロ出願を行う方が確実であり安全と言えます。

このように一定の不便さ・制限はあるものの、そのデメリットを補ってあまりあるメリットがマドプロ出願にはあると思います。特に費用眼のメリットは正直大きい!ですから、ある程度のまとまった国数に外国出願を検討する場合、少なくともマドプロ出願を選択肢に入れてメリット、デメリットを検討されることをお勧め致します。

マドプロ出願の件数もずっと右肩あがりで伸びていますね。

出典:特許庁令和2年度商標出願動向調査報告書(概要) -マクロ調査- 要約9ページ

実際にはマドプロ出願は区分を変更する補正が出来ない等、細かいデメリットがありますので国ごとに区分が異なるような商品の保護には不向きです。この辺りは外国出願に慣れた弁理士等に相談するようにしましょう。

しかしマドプロも加盟国が増えましたね。私が業界入りした頃は50ヵ国ちょっとでしたから隔世の感が半端ないです。WIPOにオンラインで手続できることも増えたしどんどん使い勝手が良くなっていってますね。

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