特許庁から無慈悲に届く拒絶理由通知について解説するシリーズ。特許庁から「拒絶理由通知」とかいう代物がとどきうろたえているあなた。そんな方にこそ読んで頂きたいです!
前回に続き「商標の使用についての疑義」を解説します。前回は拒絶理由が通知される原因をお話ししました。今回は克服方法について解説します。
よくある4つの拒絶理由についてはこちらをお読みください。
まずは本件拒絶理由の対象となる出願についておさらいしましょう↓↓
1.類似群コードの数が1区分で23以上の場合
2.個人で「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を指定した場合 ※一部法人も含みます。
3.類似の関係にない複数の小売等役務を指定した場合
この拒絶理由の克服方法は大きく分けて以下の二つがあります。
A.上記1~3に該当しないよう指定商品・役務を削除する。
B.商標の使用または使用意思を確認する書類を提出する
順番に解説しますがポイントは「出願した指定商品・役務に不要なものが含まれているかどうか」です。「不要な商品・役務はなくて全部必要!全部登録したい!」という場合は「A」になりますが「一部の指定商品・役務なら登録をあきらめてもいいかな」という場合は「B」が使えます。
A.上記1~3に該当しないよう指定商品・役務を削除する。
どういうことか具体例を挙げて説明します。
例えば指定役務が以下であると「類似の関係にない小売等役務を指定する」に該当し拒絶理由の対象となります。
第35類「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,運動用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
この時、出願人が「『被服』は実際に取り扱ってるけど『運動用具』はノリで指定しちゃった」「よくわからないで書いちゃった」等、まあ理由はなんでも良いんですが、とにかく「削除可能=商標権が取れなくても無問題」であれば「運動用具の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」を削除します。
そうすると指定役務は以下の通りになります。
第35類「被服の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」
こうなるとと「類似の関係にない小売等役務を指定する」という状態ではなくなりますので、上記3には該当しない→拒絶理由克服!ということになります。ただ「今すぐは使わないけど、商売がうまくいったら数年後には使おうと思ってるんだよね」というような場合は「運動用具の小売等役務」も登録した方が良いです。「B」での克服を検討しましょう。
類似群コードが23以上の場合も考え方は同じ。類似群コードに紐づく指定商品・役務の中から削除可能なもの=登録不要なものを選び削除することで、類似群コードの数を22個以下にできれば拒絶理由は解消します。
また前回説明した通り、個人で「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(小売の役務は記載がほんとに長い!この後は「総合小売等役務」って書きます。)を指定すると、問答無用で「使用の意思」に関する拒絶理由が出ます。
この点について特許庁審査便覧から引用すると以下の通り。
”総合小売等役務は、百貨店、総合スーパー、総合商社等の事業所が提供する役務であるところ、このような小売等役務について個人(自然人)が商標の使用の前提となる業務を行っているとは通常考え難い。”
出典: 特許庁ウェブサイト(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran/index.html)
商標審査便覧 第3条第1項柱書 「商標の使用又は商標の使用の意思を確認するための審査に関する運用について」
このように総合小売等役務は主に「百貨店、総合スーパー、総合商社」等が使うことが想定された役務なんです。ご近所にある馴染みの百貨店を思い浮かべて頂きたいのですが、多くの百貨店は7~8階建てのビルで地下に食品売場があって、1階はコスメで2~3階は婦人服で4~5階は紳士服で、その上に書店、おもちゃ屋、レストラン街。。。。みたいな感じでしょう(発想が昭和だとしても許してください。)。
特許庁から指摘されているのは「アレをほんとに個人でやるの?」ということです。そう言われてみると「個人で営むにはなじまない商売」と特許庁が考えるのも無理ないかな、という感じですよね。多くの場合、この「総合小売等役務」指定した出願人も「思ってたサービスと違う。。。」と思われるのではないでしょうか?
実際には「総合小売等役務」ではなくて「被服の小売等役務」や「化粧品の小売等役務」等の取り扱い商品を明示した「特定小売等役務」を保護すれば十分な場合が多いと思います。取り扱い商品に対応した小売等役務を個別に指定する訳です。「総合小売等役務を指定すれば全部カバーされると思ってた!」という場合、この時点で他の小売等役務を指定していなければアウトの可能性が高いです。。。この場合は、弁理士等の専門家に相談することをお勧めします。
また個人で「総合小売等役務」を行う予定がある場合もあり得ます。百貨店等を営む法人の代表者名義での出願だったり、個人の出願でも具体的な事業計画がある場合です。この場合は「B」での対応を検討してください。
このようにAの方法をとることが出来れば一部の指定商品・役務の削除を通じてほぼ確実に商標を登録できます。そういう意味で「商標の使用についての疑義」の拒絶理由は克服可能性がとても高い拒絶理由と言え、拒絶理由が出ただけで登録をあきらめるのは非常にもったいないです。
とは言え、実際には類似群コードの数え方や、実際の業務と照らし合わせた指定商品・役務の必要・不要の判断はハードルが高い場合も多いです。専門家の助言を受けながら対応する方が安全と言えるでしょう。もし宜しければこちらからか又はお電話で弊所にお気軽にご相談下さい。
次回、後編では「B.商標の使用または使用意思を確認する書類を提出する」について詳しく解説します。
前編・後編でまとめるつもりが予想以上に長くなってしまいました。やはり「使用の疑義」に関する拒絶理由はなかなか厄介(そして内容的にボケづらい。)。