特許庁から無慈悲に届く拒絶理由通知について解説するシリーズ。拒絶理由通知が届いたのでもう商標登録をあきらめてしまった。。。そんな方にこそ読んで頂きたいです!
前回は「他人の商標と同じか似ている」という拒絶理由について解説しました。
(通知されることの多い拒絶理由についてはこちらをご覧ください。)
今回は「識別力が無い」という拒絶理由について説明します。
まずキーワードです。拒絶理由通知書の中に以下の言葉があったら「識別力がない」という拒絶理由です。
キーワード:「第3条第1項第3号(品質等表示)」
「商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」
「商品の品質又は原材料を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなるもの」
この「識別力が無い」という拒絶理由ですが数ある拒絶理由の中で「克服可能か否か」の判断がとても難しいです。専門家の間でも「登録できそう」「いや難しいんじゃない?」と意見が分かれるケースが多い。そういう意味で厄介度高めの拒絶理由なんだということを頭の片隅において読み進めて下さい。
まず「識別力が無い」とはどういうことなのか?(ここがまずわかりづらいんですよね。)
「識別力が無い」とは指定商品・役務との関係で「記述的表示」「内容表示」とか言われるものです。
こちらでも少し説明しましたが、すごーくざっくりと説明すると「みんなが使う表示で誰かが独占すると不便な表示」ということです。例えば商品「ピザ」について「マルゲリータ」とか「シーフード」といった表示は単にピザの名称や種類を表しているにすぎません。なのに「マルゲリータ」「シーフード」を誰かが商標登録して独占してしまうと、誰もその表示を使えなくなってしまい不便ですよね?なので「マルゲリータ」や「シーフード」は「ピザ」について「識別力が無い」という理由で登録を認めないルールになっています。商品「チョコレート」に「カカオ」、商品「ポテトチップス」に「ソルト」といった表示も、単に原料や味を表しているだけなので「識別力なし」として取り扱われます。
上記に挙げた「マルゲリータ」「シーフード」「カカオ」「ソルト」といった表示は、商品との関係で単に「原材料・種類・味といった商品の説明」と理解するのが普通です。このようなものは特定の誰かの「商品の目印」として機能することが難しく、商標としての基本的役割を果たすことが出来ないので登録を認めていない訳です。
一方、識別力が有るか無いかは商品との関係で決まりますので、例えば商品「ソフトウェア」との関係であれば「カカオ」は「識別力なし」とはならず(その他の条件を満たせば)登録可能ということになります。「ソフトウェア」の関係で「カカオ」という表示を見ても誰も原材料だとは思わないためですね。
この「識別力なし」の拒絶理由を克服するにはどうすればいいか?
反論を作成して審査官を納得させることができれば克服できます。
要するに「識別力がない」と考える審査官に対して「この商標は商品の目印として機能する」と主張・反論することになります。具体的には商標を構成する文字の意味、全体からどのような意味が理解されるか、業界内でその言葉が使用されているのかどうか、過去に類似例が登録されていないか等々を踏まえ反論を作成する訳です。
識別力に関する反論は一定の商標リテラシーが無いと作成自体が難しいです。また克服困難なケースもあり得ます。
そのため「識別力なし」の拒絶理由対応は登録可能性の判断も含めて早めに専門家に相談されることをお勧めします。
参考までに、識別力に関する判断がいかに難しいかをご理解いただく為、本件拒絶理由に関する最近の特許庁事例をご紹介します。
・登録された商標
第45類「ファッションに関するコンサルティング,個人のファッションに関する指導,ファッション情報の提供」(不服2020-8298)
「白の生食パン。」 第30類「食パン」(不服2020-6918)
「しっとり美肌」 第5類「医療用油紙,医療用接着テープ,衛生マスク,他」(不服2020-3553)
「ピタッとキープ」 第5類「薬剤,失禁用パンツ,大人用紙オムツ(パンツ式のものを含む),失禁用おしめ,失禁用吸収性ショーツ及びトランクスその他の失禁用吸収性下着,紙製幼児用おしめ」 (不服2020-6096)
・拒絶された商標
「パワードリンク」 第32類「ビール,清涼飲料,果実飲料,飲料用野菜ジュース,乳清飲料」他 (不服2020-3647)
「置き配保険」 第36類「損害保険契約の締結の代理,他」(不服2019-16083)
「いなりすし」 第30類 「くるくるいなり」(不服2020-643)
「コンパクトでパワフル」 第3類「入れ歯洗浄剤」及び第7類「家庭用超音波洗浄器」(不服2020-6087)
いかがでしょうか?登録された商標と拒絶された商標の差、感じてもらえますか?
ぶっちゃけ専門家から見てもよくわからないよね(泣)
あ、すみません。個人の感想です。
様々な要因が結果に影響する為、なかなか線引きは難しいですが、傾向として「品質・内容表示として業界内で一定程度使用されているもの」については登録が難しいと思われます。
ただ「識別力なし」の拒絶理由が出たものは少なくとも審査段階では争ってみることをお勧めします。専門家の間でも見解が分かれるような案件であればなおさらです。どっちに転ぶかわかりませんので登録になればしめたもの。特に重要な商標は、使用の一定の安全性を確保する観点より拒絶査定不服審判まで争う方が良いでしょう。
更に登録を強く希望される商標であれば審判まで争うべきです!これは審査段階よりも拒絶査定不服審判の方が克服可能性が高いためです。
以上、「識別力なし」の拒絶理由は厄介な代物ではありますが、登録をあきらめる前に専門家に相談しましょう!