「商標とはなにか?」をやさしく解説するシリーズ。商標ビギナーの方も通して読むことで大雑把に商標のことを理解できる。そんな内容を目指してます!
前回は有名な商標をマネしちゃだめなのはなんで?という話でした。
今回は「商標を登録するためにはどうすればいいの?」という点を「指定商品・役務の難しさ」を中心に解説します。
登録商標ってなに?どんな良いことがあるの?という方はこちらをご覧ください。
商標を登録するためには、出願(=申請ですね)して特許庁の審査をパスする必要があります。
特許庁に出願するにはどうすればいいのか?
出願するためには「願書」を作成します。その上で絶対必要な情報は以下の二つです。
マーク
指定商品・役務
指定商品・役務ってなんなの?という方は最初にこちらを読んでね。
このように商標を登録するためには、マークと指定商品・役務を決めて願書を作成して、特許庁に出願する必要があります。
マーク(文字や図形ですね)は既に決まっていることが多いです。
では指定商品・役務はどうでしょうか?
この指定商品・役務の決め方は、一見簡単そうでかなり難しいです。
分野によっては専門家でも頭を悩ますことが少なくありません。
商標出願において「指定商品・役務」は独占権の範囲を決める超重要な要素。なので正しい知識に基づいて作成しないと「保護したいところに権利が発生していなかった。。。」なんていう悲惨な事態も起こり得ます。
ですから、少なくとも初めて出願する分野の指定商品・役務は弁理士等の専門家に相談することをお勧めします。よろしければこちらからご相談下さい。
ちなみに指定商品・役務は特許庁ウェブサイトで検索可能です。
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/t1201
特許情報プラットフォーム 商品・役務名検索
指定商品・役務を決める難しさをご理解頂く為、具体例をいくつか挙げてみます。
1.「広告」
第35類に「広告」という役務があります。
これを見てどう思われますか?
例えば「化粧品」「洋服」「食品」等の商品を製造・販売している会社の場合、自社製品の広告を自社内で製作することがあると思います。ウェブ広告やチラシ等ですね。
そのような広告宣伝活動を行っていて、商標を使用するのであれば、この「広告」を指定していた方が良さそうだなって思いませんか?だって「広告」ですもんね?(語彙)
しかし、上記のような場合、「広告」を指定する必要はありません。
なぜかというと商標の役務(サービス)は「他人のために行う労務又は便益」であって「独立して商取引の目的」となるものだけが該当するからです。もう少し簡単に言うと「他人のために提供するサービスでお金等の対価と引き換えに提供するもの」が「役務」にあたります。
例えば、広告代理店は、顧客の依頼を受け、顧客(他人)のために広告を製作します。そのサービスの対価として顧客は広告代理店に代金を支払います(独立した商取引の目的)。このような「広告サービス」を他人のために仕事として提供する場合に第35類「広告」を指定する必要があるのです。
つまり、第35類「広告」は「広告業」を生業とする人たちのための指定役務ということになります。そうしますと、自社製品のために自前で広告を製作するような場合には「他人のために行う労務」には該当せず、第35類「広告」の役務は指定する必要がないということになります(このようなウェブ広告・チラシへの商標の使用は、宣伝対象の「商品」への商標の使用になります。)。
でも自社製品の広告を自前でつくってたら「広告」の役務はとった方がいいかな?って思っちゃいますよね。
このように謝って不要な役務を指定してしまうと、余計な出願・登録費用がかかることになります。怖いですね。
2.飲食店のテイクアウト
皆様もご承知の通り、現在進行中のコロナ禍において飲食業界は大きな打撃を受けています。私もお酒の席に誘われる機会が激減しましたね。誘いづらい空気もありますしね。
飲食業界の皆様、本当に大変だと思います。
そのような苦境を打破するアイディアの一環として商品のテイクアウト(持ち帰り販売)を始められたところも多いです。この場合、指定商品・役務をどのように考えればいいのでしょうか?
まず大前提として、レストランやカフェのように「店舗で食事を提供するサービス」は以下の役務で保護されます。
第43類「飲食物の提供」
一方、レストランで提供する飲食物(コーヒー、ハンバーガー、牛丼等)をテイクアウト販売する場合、各個別の商品「コーヒー」「ハンバーガー」「牛丼」を販売することになる為、それぞれに応じた指定商品を保護する必要があります。
第30類「コーヒー」
第30類「ハンバーガー」
第30類「牛丼」
その為、もともとテイクアウトを行っていた飲食店さんはもちろん、コロナ禍後にテイクアウトを開始したのであれば、本来の第43類「飲食物の提供」に加え、販売する各指定商品を保護する必要があります。また、現在のテイクアウトでの商品への使用が他人の商標権侵害に該当していないか、というチェックも行った方が望ましいでしょう。
この点「テイクアウト対象の個別商品は第35類小売等役務で保護すべき」という意見もあります。かなり専門的な話になるのでここでは触れませんが、例えば「オンラインでテイクアウト販売を行っている」「他社の食品(お弁当・サンドイッチ等)をはじめ様々な食品を取り揃えてテイクアウト販売している」といった場合は第35類「小売等役務」での保護が必要になると考えられます。この点は、個別具体的な判断が必要となりますので専門家にご相談下さい(こちらからどうぞ。)。
このように、指定商品・役務に関する十分な知識が無いと、知らない間に「保護すべき商品・役務」が保護から漏れている怖さがあります。
3.美容室・理容室のサービス
次は美容室・理容室と関連する具体例です。
美容室・理容室を営んでいる場合、その屋号(店の名前)は商標です。美容院・理容室は店舗数もめちゃくちゃ多いから偶然同じ店舗名になることもあるんじゃないでしょうか?検索したみたところ、全国に美容室は約25万件、理容室は約12万件あるようです。ものすごい数ですね。実際、美容室の店舗名で争いになった裁判例もあります。店舗名称を変更することになったらかなり大変でしょうから商標登録しておく方が安全だと思います。
では美容室・理容室はどのような指定役務を登録すればいいのでしょう?
これは比較的明確で以下の役務が必須です。
第44類「美容・理容」
ただ、上記役務だけでは提供しているサービスを適切に保護できていない可能性があるんです。
多くのヘアサロンでは「ヘッドスパ」のサービスを提供しています。ヘッドスパ、私大好きなんですよね。自分へのご褒美的な位置づけで年に数回、施術してもらってます。
この「ヘッドスパ」ですが、指定役務的には「美容,理容」には含まれず、別の指定役務「マッサージ」に属するサービスです。具体的には下記役務で保護されます。
「頭皮のマッサージ」
つまりヘアサロンにとっての絶対必要役務である「美容,理容」では「ヘッドスパ」は保護できず、別途「頭皮のマッサージ」を指定しておく必要があるということです。もしマッサージ業者が同じ名前を指定役務「マッサージ」に登録してしまった場合、「ヘッドスパ」との関係で商標を使用できなくなってしまうおそれがあります(怖)。
J-PlatPatでヘアサロンが所有する登録商標を何件か確認したところ「マッサージ」を取得していないものがありました。ウェブサイトではヘッドスパをやってましたけどね。。。
美容室・理容室の場合、ヘッドスパの他にもシャンプー等を小売販売していることもあります。この場合は商品にあわせた小売等役務の保護が必要です。
このように実際に提供しているサービスを見極めた上で保護が必要な指定商品・役務を的確に選ぶことが求められます。
いかがでしょうか?「指定商品・役務って難しい。。。」と感じていただけたでしょうか?
難しいですよね。上記に挙げた他にも難しい分野はたくさんありますし、出願人の事業の将来的な広がり等も考慮する必要がありますので、専門的かつ多角的視点が必要になります。
難しいと感じた方はいつでもお気軽にこちらからご相談ください。お電話でももちろん承ります。
次回も指定商品・役務に関する具体例をいくつかお話しします。
あと願書の書き方について知りたい方はすごくわかりやすく書いてあるウェブサイトが沢山ありますから「商標 願書 書き方」とかでググってくださいw