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やさしい商標のはなし⑨ 指定商品・役務の検討の難しさ(後編)

「商標とはなにか?」をやさしく解説するシリーズ。商標ビギナーの方も通して読むことで大雑把に商標のことを理解できる。そんな内容を目指してます!

前回に引き続き、商標出願を行う上でとても重要な指定商品・役務の難しさについて説明します。未読の方はぜひ前回分を先にをお読みください。

では早速ですが前回の続きってことで指定商品・役務の難しさがわかる具体例をみてみましょう。

4.手袋

商品「手袋」に商標を使いたい場合はどんな指定商品にすれば良いでしょう?

例えば第25類に以下の商品があります。

第25類「手袋」(17A04)

「これこれ。これを書いとけばオッケーだよね」と思っちゃいますよね。

というかこれ以外にないでしょ?ってくらい明確な商品です。

ところが特許情報プラットフォームの「商品・役務名検索」で「手袋」を検索してみると。。。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/t1201

特許情報プラットフォーム「商品・役務名検索」

大量の手袋が検索結果にあがってきます!!

その中のいくつかをピックアップしてみると以下の通り。

第9類「事故防護用手袋」(17A08)
第10類「医療用手袋」(17A09)
第17類「絶縁手袋」(17A08)
第21類「ゴム製家事用手袋」(17A08)
第24類「浴用手袋」(21F01)
第25類「手袋(被服)」(17A04)
第28類「サッカーのゴールキーパー用手袋」(24C01)

うーん。「手袋」の大漁旗ですね。

なぜこんなにもたくさんの手袋があるのかというと特許庁では商品を「用途」と「原材料」で各区分に分類しているからです。確かに↑を見ると「手袋」といっても様々な種類があるのがわかりますね。この中から、商標を使用する「手袋」を正確に指定する必要があります。

使用したい手袋が「ゴム製家事用手袋」だったのに第25類「手袋」(←寒いときに一般の人が身に着ける普通の手袋ですね)を指定してしまうと、関係のないところで商標権が発生し、肝心な商品は保護されないという笑えない状況に陥ります。

他に「用途・材料」で区分が分かれる商品をいくつか挙げてみます(下記以外にもありますよ。)。

「建築材料」
「包装用袋」
「コースター」
「接着剤」

これらの商品は特に注意ですね。経験と知識がないと正確な商品を保護することは難しいと思います。

5.商品の販売に関する情報の提供

次は以下の指定役務をみてください。

第35類「商品の販売に関する情報の提供」

この役務↑↑を読んでどんな内容のサービスだと思いますか?

例えば、様々なスマホや家電製品の特徴・性質をレビューして読者(消費者)に紹介するウェブサイトがあったら↑↑の指定役務に該当するような気がしませんか?

「消費者に商品の情報を提供するサービス」って感じがしますよね?

同種の商品を比較し価格・性能の違いをわかりやすくまとめることで、消費者に有益な情報を提供するサイトは実際に存在します。このようなサービスは上記役務により保護されるでしょうか?

答えはNOです!

このような商品比較系のサービスは「商品の販売に関する情報の提供」では保護されません。 この役務「商品の販売に関する情報の提供」がどのような内容を保護するのかというと「商業等に従事する企業の管理,運営等を援助する性質を有する役務」です(急に硬くなった!)。硬すぎる表現を脳が受け付けない方のため、平たく言うといわゆる「B to B」(企業から企業へ提供されるもの)の業務だと考えられています。

具体的に言うと「商品の販売に関する情報の提供」とは「商業等に従事する企業に対して,その管理,運営等を援助するための情報を提供する役務」です。これも硬すぎるので具体例を挙げると、例えばオンラインショップを運営する企業に対して、その管理方法・運営方法等に関するアドバイスを提供する、といったサービスがこれにあたります。要するにサービスの提供を受ける側が「事業を営む企業」であり、一般消費者は想定してないってことです。

しかしですよ?「商品の販売に関する情報の提供」については、字面だけを捉えると「最終消費者に商品の情報を提供するサービス」と理解するのもやむなしかな。。。と思うんですよねー。実際、最高裁が白黒つけるまでは特許庁の解釈もそっち寄りだったんですよ。ちなみに「最終消費者に商品の情報を提供するサービス」「消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供」という役務で保護されますよ。

「日本語って難しいね」って思わされる案件ですが、役務の解釈はほんと難しいです。専門家も悩むことが多いです。

6.受託による〇〇の製造

指定商品・役務を検討するにあたり、出願人に質問をしたとします。

「この商標を使用する事業はなんですか?」
「包装用容器の製造販売だね。」
「じゃあ役務じゃなくて商品ですね。検討しますから少々お待ち下さい。」

といったやり取りを経て「商品」のみを検討する。

これは危険なケースです。

なぜかというと「包装用容器」は、中に入る製品を考慮してオーダーメイドで製造されることが多くある為です。つまり、単に出来あいの包装用容器(商品)を売るのではなくてお客さんの注文を受けて、その時々で形状・大きさ等が異なる包装用容器を製造する事業形態です。

このような場合、商標で保護すべきなのは商品「包装用容器」ではなくて「受託による包装用容器の製造」という第40類の役務です。商品「包装用容器」を保護しても意味がないということになっちゃいます。

上記の例で言えば、出願人は「包装容器の製造販売」と答えているものの、よくよく話を聞いてみると「依頼人の注文に応じた包装用容器の製造」という役務を提供している可能性があります。この場合は「受託による包装用容器の製造」を保護すべき、ということになります。

実際には、既製品を作っている場合と、お客さんの注文に応じて製品を作る場合と、これらの双方を行っている場合や、明確な線引きが難しい場合が考えられます。状況次第では、商品と「受託による〇〇の製造」というサービスの双方を保護することも検討すべきでしょう。

第40類の「受託による〇〇の製造」には、以下のような役務があります。

受託による印鑑の彫刻
受託による家具の製造
受託による食品の製造

他にも第三者からの受託に基づき提供する以下のようなサービスがあります。

受託によるビールの醸造
受託による合成樹脂・金属の加工
受託による看板の製作
受託による精米

見かけ上は「商品」を製造販売しているように見えても、実際は受託による「役務(サービス)」の提供だというケースは、実際はかなりあります(恐ろしいことに、提供する役務と登録商標の保護範囲とが乖離している事例も一定数あると考えられます。)。一方で、商標の知識が無いと気づくことはかなり難しいと思います。

いかがでしたでしょうか?指定商品・役務の選択の難しさについて具体例を挙げつつご紹介しました。「難しさ」についてお分かり頂けましたでしょうか。

実際はここに書ききれない難しい事例もまだまだあります。
間違いのない範囲に商標権を発生させるためにも、特に初めて出す事業分野については商標に詳しい専門家にご相談することをお勧め致します。気になった方はいつでもこちらからお気軽にご相談下さい。登録商標の権利範囲チェックも承りますよ。

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